赫い情事

赫い情事/1996.01.12/日本/65min./カラー ワイド/瀬々敬久

今日『赫い情事』を見た.ピンク四天王として有名な瀬々さんの作品です.
ずっと昔,深夜番組でピンク四天王特集みたいなのを偶然見て,それ以来ずっと気になっていたんだけど今まで見る機会がありませんでした.というわけでとても嬉しいです.
んで...感想としては...う〜ん...サビれてる...映画の中にでてくる人も彼/女等の暮ら部屋も...なんか日常のすべての光景がなんともいえず寂れ...錆びれ...う〜ん...サビれているんですね.このサビれ具合にははまります.多分自分の中のどうしようもなさみたいな部分をすごく突いてくるんだと思います.見た後に,どうしようもない倦怠感というか...なにか持て余し気味な感覚を抱えたまま夜の街を放浪したくなる映画です.ストーリーはシンプルなのですが,やっぱり全体に漂うサビれ感とラストに向けてぐわーっと高まっていくテンションに圧倒されます. 

Don't forget you're going to die

Don't forget you're going to die/1995/France/118min./colour/Xavier Beauvois

美しい一瞬つながりでもう一つ...
私がこれまで見た映画の中ですごく強烈に心に残っているものの一つにXavier Beauvoisの『Don't forget you're going to die』というのがあります.
これはたしか96年ぐらいのもので,監督さんはフランス人の若手の人だったはず.
もうタイトルからしてやるせないですけどね...ふふふ...
主人公は美術史を学ぶ男性で,彼は勉強を続けたくて兵役を避けようとあの手この手を使うんだけど,結局逃れられなくて一旦は兵役につくんです.でもある日突然解雇になる.なんでかと思ったらHIVポジティブだったということが分かる.そうしたらもう勉強どころじゃなくなって...どうせ自分は死ぬんだっていう思いにとらわれてドラッグの密輸とかに手を染めたりして,とにかく退廃的な日常へと陥っていくわけです.でもそんな日々も長くは続かず...やがてすべてのものから逃れたくて一人イタリアへと向かい,自らが憧れと情熱をもって学んできた中世の美術,特に田舎町の教会の壁画を巡る旅へ出る,と...その途中ある女性と出会い,つかの間の幸せで穏やかな一瞬を垣間見る... 
そのまま幸せの中に留まることもできるのだけれども...彼は結局そんな幸せの存在に溺れることもできず,それを信じることもできず...自らにまとわりつく死の存在から逃れることもできないままにに一人列車に乗り,かつてあれほどまでに逃れようとしていた戦場へと自ら向かい,最前線に立って相手の砲弾の的になって死んでいくんです.
結局それしか選べなかった...というか死の存在しかもはや自らの生にとってリアリティを持たなくなってしまった男性の話...とも取れるかもしれません.
結局そこにしか行き着くことのできない切なさが,一瞬の美しい日々の思い出によってより強烈に浮かび上がってくるわけです. 

El sur

El sur/1982/Spain, France/92min./colour/Victor Erice

九大で映画を見た.エリセの『エル・スール』と中国映画.『エル・スール』見たことなかったので,とても楽しみでした.
エリセの作品に共通しているのは,ある一瞬の美しさとある種の救いようのなさ...というかのがれようのなさ...みたいなものかなあ...
そう.最近この「一瞬の美しさ」を持った映画にすごく惹かれるんです.
「エル・スール」はスペイン内戦の過去を抱えたまま北へと移り住んできた家族の物語で,家族の...特に父親の存在というものが娘の視線によって描かれています.
父親にとってのエル・スール(南)とは自らが生まれ育った故里であり,内戦時に別れ恋人のいる場所であり...つまり自分の失った部分なわけです.ある種の空白を抱えたまま北で家族とともに生きる彼を見つめながら娘は,自分の父親が抱える大きな空白を父親の不在性として感じ,父にとってのエル・スールを,自らにとっての父親(像)がここではなくそこにおいて完結されるようなある遠い世界としてイメージするようになっていくわけです.映画の中には実在のエル・スールは登場せず,そこからの訪問者や手紙がかろうじてその存在をイメージさせ,またその遠い場所と人々とのつながりを強烈に示すことになります.
この映画は娘の視点から描かれていますが,最も重要な位置を占めているのはあくまでも父親である...という風に私は感じました(ファザコンだからね).彼が南と北という二つの世界を自らの内に抱えつつ日々を生き...つねに大きな空白(北で生きる時には南が空白となり,南に行けば北が空白として自分の心を支配していく...という意味で)を抱えながら,結局その空白を埋めることのできないまま最後は北の地で死を選択するラストは強烈な切なさを持って迫ってきます.そんな彼にももちろん人生の中の美しい一瞬というものがあって,それが娘の聖体拝受の日の美しさやその後のパーティであったりするわけです.その日常に降ってわいたかのような美しい一時は,彼にもしかしたら自分はまだここでこうして家族と共に生きていくことができるかもしれない...という希望を与えてくれるわけですが,結局は南の不在が自分の心の内で大きくなっていくことを止めることができず...自分を救ってくれるかもしれないと思ったあの日の出来事すら,自らの生を支えるには何の力も持ちえないのだという圧倒的な虚無感に出会い...そうして死しか選択しえない状況へと導かれて(追い込まれてではないんですね)いくわけです.
つまり...そう...『エル・スール』ってそういう映画です.

獣たちの性宴 イクときいっしょ

獣たちの性宴 イクときいっしょ/1995.10.13/日本/63min./カラー ワイド/今岡信治

今日『獣たちの性宴 イクときいっしょ』(原題:彗星まち)を見た.
始まる前の早川義雄の歌声(っていうかつぶやき)が淡々と流れる場の雰囲気にアングラ感をそそられました.
そんでもってこの映画.なんかすごくよかったなあ...
いろんな所で書いているけど,本当にすごく切ない...っていう言葉がぴったりな作品でした.
登場人物の状況とかがもうバシバシ...じゃないなあ...ズキズキかな...染み渡ってくるの自分の中に.本当にそんな感じ.
カメラの動きとか全体的な色もすごくすきだったし.最後の方で岬の上の方でガソリンかぶって燃えてるシーンとか...なんかちょっと『気狂いピエロ』のラストと重なったりしました.
多分,この映画にある切なさの所以っていうのは,あれだな全体的な倦怠感とか閉息感とか救いのなさ感みたいなものがあって,でもそんなどうしようもない状況なんだけどそんな毎日の中にも,刹那的ではあるにしろもしかしてまだ大丈夫なんじゃないかっていう気持ちにさせてくれる美しい瞬間があるっていう,その美しい瞬間(川に飛び込んでみんなで戯れあうシーン)の存在にあるんだろうなあ...だってあのシーンは本当に本当に美しいんです.私,泣きそうになりました.このどうしようもない日々に湧いて出たような美しい一瞬の話は,今岡さん自身の文章の中にも出てきます.
でも...やっぱり絶望的...っていうか最後に残るのはどうしようもないやるせなさ.なんですね...彗星をよぶためのおまじないを絶叫する声だけが残るラストは,本当に泣きます...あ〜...切ない...
でも本当にいつまでもどこかにゴロッて残っているんですよね.この映画からくるある感覚が...それがとてつもなく気になるのです. 

 
June 2000
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