El sur

El sur/1982/Spain, France/92min./colour/Victor Erice

九大で映画を見た.エリセの『エル・スール』と中国映画.『エル・スール』見たことなかったので,とても楽しみでした.
エリセの作品に共通しているのは,ある一瞬の美しさとある種の救いようのなさ...というかのがれようのなさ...みたいなものかなあ...
そう.最近この「一瞬の美しさ」を持った映画にすごく惹かれるんです.
「エル・スール」はスペイン内戦の過去を抱えたまま北へと移り住んできた家族の物語で,家族の...特に父親の存在というものが娘の視線によって描かれています.
父親にとってのエル・スール(南)とは自らが生まれ育った故里であり,内戦時に別れ恋人のいる場所であり...つまり自分の失った部分なわけです.ある種の空白を抱えたまま北で家族とともに生きる彼を見つめながら娘は,自分の父親が抱える大きな空白を父親の不在性として感じ,父にとってのエル・スールを,自らにとっての父親(像)がここではなくそこにおいて完結されるようなある遠い世界としてイメージするようになっていくわけです.映画の中には実在のエル・スールは登場せず,そこからの訪問者や手紙がかろうじてその存在をイメージさせ,またその遠い場所と人々とのつながりを強烈に示すことになります.
この映画は娘の視点から描かれていますが,最も重要な位置を占めているのはあくまでも父親である...という風に私は感じました(ファザコンだからね).彼が南と北という二つの世界を自らの内に抱えつつ日々を生き...つねに大きな空白(北で生きる時には南が空白となり,南に行けば北が空白として自分の心を支配していく...という意味で)を抱えながら,結局その空白を埋めることのできないまま最後は北の地で死を選択するラストは強烈な切なさを持って迫ってきます.そんな彼にももちろん人生の中の美しい一瞬というものがあって,それが娘の聖体拝受の日の美しさやその後のパーティであったりするわけです.その日常に降ってわいたかのような美しい一時は,彼にもしかしたら自分はまだここでこうして家族と共に生きていくことができるかもしれない...という希望を与えてくれるわけですが,結局は南の不在が自分の心の内で大きくなっていくことを止めることができず...自分を救ってくれるかもしれないと思ったあの日の出来事すら,自らの生を支えるには何の力も持ちえないのだという圧倒的な虚無感に出会い...そうして死しか選択しえない状況へと導かれて(追い込まれてではないんですね)いくわけです.
つまり...そう...『エル・スール』ってそういう映画です.

posted by f at 2000/06/24 2:08
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