世代と異文化許容能力

ところでNYC滞在の理由は友人母子と観光するためだったのだけれど、今回年の離れたゲストを迎えてみて改めて若い人の異文化適応能力に気付かされた。二人とも今回が初めてのアメリカ旅行、というか非アジア圏への旅行だったのだけれど、お母さんの方が、どちらかというとある程度スタンダードな、というか悪く言うとステレオティピカルなアメリカ像、アメリカ人像みたいなものを強く持っていて、それを通していろいろなことを判断する傾向がある一方、友人(私より5歳くらい年下)の方は英語も話せないのに、それなりに何でも起こることを「まー、こんなもんかなー」とか「おもしろい」といった感じで臨機応変に受け入れ、反応していくような所があって、すごいなぁと思った。

ちょっと前にB大図書館においてある文藝春秋(本当にこれが私の唯一の娯楽になりつつあるよ...)で新たしい年に向けての豊富というか展望を各界の著名人に聞くみたいな特集があったのだけど、そこで中島義道が言っていたことを思い出したりした。この文藝春秋というのは、いっちゃ悪いけどあまりレベルが高いとは思えない。基本的にしょうもない政治ゴシップとかコラムばかりだし、たまに載る文芸批評もどうしようもない(だいたいどうして「親からもらった身体に傷をつけるというのはどーのこーの」なんていう文章が『蛇とピアス』の批評として掲載されるんだ。他にも「痛そうで最後まで読めなかった」とか「見かけのわりにちゃんとした文章だと思った」とか、本気で紙の無駄だと思うような文章の羅列で読んでいて怒りが湧いてきた)。でも読んでいると一人ぐらいはまともなことを書いている人がいて、「新しい日本はこうなる!」特集の時の中島義道がその一人だった。
その特集に寄せられた回答の多くは、政治・経済の改革万歳みたいな現政権よりの話題と、最近の若いものに対する年よりじみた批判で構成されていたのだけれど、その中で中島義道だけが唯一、いや、最近の若い人って結構いいじゃん、という話をしていた。彼の主張を支えているのは以下の3点。
1. 最近の若者は無知だとかいうけど、昔のろくに教育も受けられなかった世代の若者はもっと無知だった。
2. 最近の若者はやさしい。そのやさしさはキャリアだとか経済的な豊かさを獲得するためにやっきになっている/た親世代に対する反省的な所がある。
3. 最近の若者は異文化に対する許容度が圧倒的に高い。西欧に対する劣等感や歪んだ対抗心もないし、外国でも物怖じしない。外国人を見ても驚かないし、基本的人権に対する理解や差別に対する問題意識もひと昔前の世代に比べれば格段に上がっている。
もちろん、こういう見方に当てはまらない人も多いだろうし、すべては相対的な基準でしかなかったりもするわけだけれど、中村氏の観察はあながち的外れとも思えない。特に3については本当にその通りだと思うことの方が多い。
例えば今時の若者で「黒人=犯罪者」といった見方をする人ってどれくらいいるのだろう。もちろんそういう見方がまるで残っていないとは言わないし、やっぱり時と場合によっては黒人の集団を前にして白人の集団に対しては感じないような恐さを感じることがある、という風に言う人はいるけれど、少なくとも最近の若い人というのはそういう見方が差別的であるという意識は持っている気がする。少なくとも「黒人だわ。恐いわねー」といった発言を無意識にするような人はいない(一般的に見てね)。でもそういうことを平気で言う人がちょっと上の世代になると出てきたりして、もう、何というか、これは怒るというよりは単純にあきれてしまう。でも一方で、その世代の人たちがアクセスし得た文化というのは、そういう凝り固まった、あるいは差別的な人種観によってのみ構成されていたわけで、そう考えると無知であることはつくづく暴力的だとも思う。
それに比べて、最近の若い人はといえば、ズボンを腰まで下げてバスケのユニフォームとか着て、一日かけてブレードしてヒップホップ大好き!とか黒人かっこいい!とか言っちゃうわけで、これってやっぱりすごい変化だと思うんだけど。だからといってそういう若者たちが無知の暴力性と無縁かといえばそうではなくて、やっぱりそこにはステレオティピカルな黒人観だとか表面的で過剰な憧れとかいうものがあって、それはそれで無知と等しく暴力的なものだとは思うのだけれど、でも、それでも最近の若者(というかこういう言い方しかできない自分がとてもイヤなのだけれど...)の穏やかさというか、ちょっと引いた感じだとか、あれがいい、これが好き、と言ったかたちでいろんな文化をある意味節操なく受けていく感じというのは、嫌いではない。どちらかというと私なんかの世代はそっちに近いのだろうな、とも思うし。

うん、まぁ、とにかく、黒人に対する見方というだけでなく、本当にいろいろな場面で世代間の異文化許容能力の差を目の当たりにすることになった今回の観光旅行でしたが、友人母子やS氏のアメリカ観というものがどういう所から来ているのかを考えるという点では非常におもしろかった。あとおいしいものもたらふく食べた。

posted by f at 2004/05/13 21:21
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