生きる意味とか希望とか

別に自分の娘や息子に対して結婚をけしかける母親が間違っているとか、結婚したら子供を持つのが普通だとかいう見方がおかしいとか、「女なんだから」とか「男なんだから」っていう言い方が差別的だとか言うつもりはない。ただ、ある一定の仕方でしか生き方の価値を示し得ないような社会というのは(そして社会というのは往々にしてそういうものだと思うのだけれど)、そこに当てはまらない人にとって非常に暴力的な装置として機能する、ということだけはいつも思う。

「あるべき学生像」だとか「あるべき父親像」「あるべき女性像」みたいなものにそって進んむことは別に悪いことじゃない。仕事をバリバリして出世して自己実現を目指すのも、結婚して子育てに喜びを見いだすのも、それが自ら望んで手に入れたものであればよいと思うし、そのことによって自らが幸せを獲得できるのであれば問題ない、というかむしろ好ましいことだ(その人にとっては)とすら思う。

ただ、自分がそれまで当たり前のように生きていた日常だとか、それが幸せだと思っていた数々の事柄が、突然引っくり返されたり、自分がこれからもそこで生きていくんだと思っていた場所が突然失われたりすること、あるいは少なくとももうここではやっていけない、と思わされる瞬間というのがあるのもまた確かだと思う。それはすべての人に起こるわけではないと思うけれど、日常の崩壊といやおうなく直面させられる人たちというのは確かに存在する。そういう経験をしてしまった人にとって、ある一定の仕方でもってしか生きる意味とか希望とか未来を提示できない社会というのは、巨大な暴力装置として浮かび上がってくる。

こういう経験について考える時、私が頭の中で思い描いているのは、割と特殊な、いわゆる社会的マイノリティと呼ばれる人たちの存在だったりするのだけれど、実際の所、似たような崩壊の経験っていうのは、日常生活のいろんな部分に潜んでいるんじゃないかと思う。
例えば20歳半ばすぎで結婚して、30代で子供を産んで、それが幸せなんだっていわれてしまえば、それこそ不倫している人とか、ゲイの人とか、子供が産めない人っていうのは、決して幸せにはなれないんだってことになってしまう。でもそんなことはないはずだよね。そこで言われる幸せの形式っていうのは単にヘテロ的な家族観の押しつけであって、実際にはそこに当てはまらないような幸せの形式っていっぱいあると思う。ただ社会っていうのは時に、そういう多様な幸せのあり方っていうのを認めずに(認められずに)、社会的に確立された画一的な幸せの構造から外れてしまった人には、生きる意味も希望もないかのようにふるまう。

そういう現実を前にして、社会的な認証なんてなくていい、それは自分の求めるものではない、と言い切るのは結構難しいことだったりもする。社会的に価値あるものとされるような生の形式から外れて生きるということは、自分の外部(社会)に何ら基盤を持ち得ない自らの生の価値というものを、その都度生み出し、問いかけ、再構築していく無限の営みを要求される。こうなれば幸せ、こうすれば認められる、そういう価値判断の基準が全くない状態で、自らの生の価値を見いだそうとすることは、思う以上に大変なことだと思う。

「やっと結婚します。」
大学時代の友人からメールがきた。
以前、彼女が、いわゆる社会的に「こうあるべき」とされるような生き方と、そこからズレていく自分の生き方との間で葛藤していた時、上のようなことをメールに綴ったことがある。その時の私の結論は、「ダメな自分を肯定しよう」ということだった。自分のことをダメだと思う時、自分が何に対してダメなのか、どういう状態なら自分はダメじゃないのかを考えてみる。自分がこうありたいと思う自分像というのがいったいどのようにして形成されているのかを考えてみる。もしそれが社会的な認証とか賞賛によってのみ完結されるようなものであるとしたら、そしてそれを得るために、自分は自分の最も大切に思うような自己の部分を犠牲にしなくてはいけないとしたら、時には社会的な賞賛に別れを告げてダメな自分を肯定することも必要なのではないか、そんなことを書いたと思う。もちろんそれがどんなに苦しいことかも含めて。

それから2年。
「やっと」という言葉が何を意味しているのかは分からない。でも、単に年齢的なことだけではないような気がする。彼女がこれまで経験した数々の葛藤が、最終的に結婚という選択に行き着いたのであれば、それはとても喜ばしいことだと思う。
きっと繊細な彼女のことだから、これからもことあるごとに社会的な幸せや生のあり方と自分の求めるそれらとの間で揺れ続けていくのだろうけど、そんな彼女だからこそ、本当に、幸せになって欲しいと思うのです。

posted by f at 2003/04/26 15:56
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