近況&覚え書き

09022004.jpgえぇと、やる気にムラがありまくりなのをどうにか直せないものだろうか...

最近はもっぱら自分のクラスの準備でてんてこまい。週3時間教えて月給が10万にもならないというのはどうなんだろうという気もするけれど、まぁ、poverty lineギリギリとはいってもやっぱり私たちは特権化された貧困層なので文句はいえない。というか、まぁ、教えるの好きだし。
教えるクラス、最初は「開発と文化」というタイトルだったのだけれど、シラバスをいろいろひねくり回しているうちに、少しづつ内容が変わってきて、最終的に「技術倫理:近代技術の構造とその批判」というタイトルになってしまった。えぇと、中身はそこまでかわっていなくて、理論とケーススタディーズが半々くらい。で、理論については、うちで開講されている他の応用倫理系のクラスは全部分析哲学よりなのでこれは大陸よりに。読むのはハイデガーの「技術論」、ハバーマスの「『イデオロギー』としての技術と科学」、マルクスの「疎外論」、フーコーの「主体と権力」など。あと、後半にハバーマスの「技術の進歩と社会的生活世界」を入れて、あと、民主主義的な枠組みを改良することで技術官僚制に陥らないような、人間の側から技術をコントロールしていくような可能性を探る論文を2本ほど(Ellulが"The Technological Society"の後に書いたものを含)。まぁ、大陸系技術論の授業としては王道な選択だと思う。アドルノ(技術批判)とかアレント(技術官僚制批判)も入れたかったのだけれど、テキストとして使いやすく、かつ他の文献とのつながりが分かりやすいものを見つけられなかったのでこれは今後の課題とする。次回はもうちょっと理論に中心をおいて、Feenbergあたりがまとめたやつを一冊基本テキストとして使うかもしれない。

というか、こうやっていろいろ試行錯誤しているうちに、日本でK教授が環境倫理の授業でやろうとしていたのはこういうことだったのか、ということを、なんというか、しみじみと実感した。分かっていたつもりではいたのだけれど、こう、自分で試行錯誤しつつ、こういう風に話をつなげるにはここでこの文献を読ませて...なんてことをやってできた結果がK教授から習った環境倫理の授業の枠組みと非常に似通ったものになっているということに驚いたというか何というか。単にK教授の影響を受け過ぎ、という風にも言えるかもしれないけれど、でも、今回の授業の内容というのはかなり自分がやりたいことに近いとは思う。

ちなみにこっちで授業をする時一番大変なのは文献の選び方だと思う。日本ではイントロの場合、特に指定文献のないまま、教授が毎回ハンドアウトを配って講義をしたりすることもあるけれど、こっちではほぼ毎回リーディングアサインメントがでて、それにそった形で授業が進む。しかもそのアサインメントはその分野のおおまかな概要をまとめた単一の文献を読むのではなく、部分的ではあっても大本の文献を読むという仕方で進むことが多い。環境倫理で言えば、動物の権利運動とは云々という説明的な文章を読むのではなく、シンガーを読み、リーガンを読み、ファインバーグを読み、という形で進む。だからそれぞれの分野の主要文献の抽出部分をあつめたものがテキストとしていくつもでている。
ただ技術論というのは環境倫理と同じ位か、大陸哲学の分野ではそれ以上の歴史があるのに、アメリカの大学で教えるためのテキストとして使えるものは見たことがない。というか見つけられなかった。大陸よりということも関係しているのだろうけれど。
というわけで一から文献選びをしたわけなのだけれど、一時間の授業が週に3回あって、それが13週分。間に休日やディスカッションのみの日が入るとしても全部で25-6文献揃えなければならない。これって、まじできついですよ。なにがきついって文献コピーしてコピーライト表記とかしてリザーブデスクに持っていくのがつらい。あとそれなりにつじつまあわせながら26文献そろえるのも辛い。
ちなみに技術倫理で検索してみたところ、ほぼ同じ文献で授業をしている人がいて、誰だろうと思ったら先のFeenbergだった。しかもそれは大学院向けの授業だった。やっぱりイントロでは無理があるかもしれないなぁ...とも思うけれど、まぁ、できるかぎりやってみる予定。まぁ、そもそもハイデガーやハバーマスを2日で読んで1時間で理解できるとも思えないし。もちろん理論的な部分にもっと時間を割いてもよかったのだけれど、ケーススタディーズを中心に理論を補足的に使うというプランをたてていたこと、授業をとっている学生の多くが自然科学専攻なこともあって、理論は全体の1/2を超えないようにしたいと思っていて、それでますますスケジュールがタイトに。

そして昨日、先学期のTA評価が戻ってきた。一人の学生からDをつけられたのと、あと一人から英語のことを指摘された以外はおおむね良い評価。まぁ、専門が環境倫理なのに「内容が分かっていない」とか言われたらおしまいだけれど。そして、言語については毎学期一人は必ず指摘されるなぁ...もちろん指摘されてもっともなのだけれど、いつまで指摘され続けるのだろう、という気もしたり。
あと個人的には「○○についての説明が分かりにくかった」とか「あの例題はとてもよかった」とか、授業についての具体的な感想が欲しいんだけど、やっぱりそういうのは出てこないなぁ、というか、まぁ、それはevaluation sheetそのものの構成に問題があるからだとは思うのだけれど。結局、やさしいとか学生思いだとか(そうなのですよ。私は自分の学生はかなり本気で愛しているのですよ。)、それはそれで言われればうれしいけれど、教える技術の向上にはあまり結びつかなかったりもするわけで、まぁ、難しいところだなぁ、と思う。あ、全体像を図化したのが良かったというコメントはあった。なんでも簡略図化する、時としてマイナスに作用しがちなこの性格も分析哲学を教える上では役に立つよう。

posted by f at 2004/09/02 16:30
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comments

おぉ、Taro君久しぶり。この前は電話ありがとう。
アメリカの大学ってだいたいどこも基礎はアナリティックだから、social theoryなんて全く知らない人は多いよね。うちも誰もがとるような大規模レクチャー形式の授業は全部分析哲学だよ。大陸哲学はアッパーレベルか大学院生が教える小規模レクチャークラスのみ。それなのに社会科学系の大学院では最近はsocial theory必須だから大変だよね。うちの大学院生でもそこでつまづく人はすごく多いみたい。で、結局苦手意識だけを植え付けてほったらかしみたいな感じ。完全にカリキュラムの設計を間違っていると思うんだけど。
新聞記事は結構役に立つの多いよね。私もケーススターディーズのうち半分は新聞記事とかweb上の文章をもとにしてやる予定。学生にしても取っ付きやすいだろうし。

あと独自のevaluation sheetを作成すべきというのは、本当にそうだよね。私も前回は最後ばたばたしていて準備できなかったんだけど、前々回は最後のクイズの時にボーナスとしておもしろかったテキストとその理由なんかを書いてもらって、それは結構興味深い結果だった。んー、でも結局主張なり理論的な枠組みなりが分かりやすいものが人気あるんだよね。批判はするけれど分かりやすい代替案を示さないようなテキストは概して人気がなくてね。なんかちょっと残念だったなぁ。

posted by fumi at September 5, 2004 08:13 PM

ご無沙汰しています。お元気ですか?先日はいろいろ話ができ、ありがとうございました。

Fumiwoさんの教えているクラスの文献リストを見ると、私も一緒に受講したいです・・・(苦笑)。アドルノにせよ、ハーバーマスにせよ、こういう内容の素養を学部で蓄積できるのが羨ましい。逆に基本が身についている人がみると、地理学がやみくもに取り入れようとしている social theory は一体何?という気がしてきますね。

教える上で文献リストを作るのが大変というのは賛成です。私はハードカバーの教科書を1冊指定しそれを軸にして教えるのと、いろんな文献を探し集めながら独自のreading packet を作って教えるのを両方経験してきましたが、教える側の独創性と自由が利くという意味では後者の方がずっとやりがいがありますね。日本と違って英語圏では集められるメディアの論評や情報が多様なことから、個人的に学部初等レベルのクラスはメディア (NY Times, World Watch, Asia Timesなど)の記事だけを集めてリーディングとして教えられたらなぁと願っています。

最後に授業評価の件ですが、大学のEvaluation sheet を当てにするよりも、自分で作って適宜聞いた方がらくですよ。出席のカウントとして今までの授業評価を書いてもらったり、試験に extra credit として一番興味深かったor難解だった講義(reading)を書かせると、意外なほど率直な意見が聞けます(苦笑)。学期中にぜひお試しを。

posted by Taro at September 4, 2004 07:12 PM
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