orange revolution in the u.s. vol.1

偶然1/6にワシントンDCで行われたプロテストの記録を撮りにいくプロジェクトに参加することになりました。日本人で最初から最後の方まで参加していたのは私だけだったので、せっかくですので1/6に何があったのかを残しておこうと思います。1/20の大統領パレードも近いことですし、できればそれまでしばらくこの話題で。

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対立候補者の毒殺未遂がおこったウクライナの大統領選、人々の間の対立が激化する一方のイラクの状況などを巡り、世界中で市民の声を反映する公正な選挙のあり方についての議論が活発化している。しかし世界の民主化というスローガンのもとに各国の政治に積極的に干渉しているアメリカ合衆国における構造的な不正選挙については十分な関心が払われているとは言えない。

1月6日、2004年の大統領選における不正投票の可能性を追求し、票の再集計を求める大規模な市民集会がワシントンDCにおいて開かれた。この日、上院議員の内一人でも選挙結果について異議を唱える者が出れば、上院議会において選挙そのものの見直しが行われ、場合によっては票の再集計さらには再選挙すらもあり得るという状況の中、一時の採決を前に全米各地で大規模なプロテストが企画された。ワシントンDCのキャピトル前にはカリフォルニア州やオハイオ州などからかけつけた数百人の市民が集まった。

今回不正選挙の可能性があると言われているのはオハイオ州、フロリダ州、ノースカロライナ州、ニューメキシコ州、ネバダ州などで、問題点として上げられているのは地域による投票機械の不平等分配、投票シートの不備、膨大な未開封票の数などである。
例えば今回の大統領選を決定づけたオハイオ州においては、共和党支持者の多い白人中上流階級の多い地区に比べ民主党支持者の多い都市部やマイノリティ地区には投票マシーンそのものが少なくしか配布されず、また不備により動かないものも多かったと報告されている。スピーカーの一人である白人女性は自分の住んでいる地域にはマシーンもスタッフも十分準備されており5分で投票できたのに、その後監視官として訪れたマイノリティ地区ではマシーンもスタッフも足りず、人々は投票場をたらい回しにされ、天気の悪い中最長5時間も待たされている人がたくさんいるという事実に愕然としたと語った。
またブッシュが大量に票を獲得した2地域(ここでの大量リードがブッシュのオハイオ州における勝利を確実のものとした)において、ケリーは地方議員(州にもよるが、通常大統領選と他の選挙(上院議員選挙、地方議員選挙など)は同時に行われる)に立候補した地元出身のマイノリティ女性候補者(リベラル)よりもさらに少ない票しか獲得できなかった。そもそもこの2地域における両者の票差自体不自然である上、ブッシュ支持者が大統領としてブッシュ(保守)を押すと同時に地方議員としてマイノリティ女性候補者(リベラル)を押すとは考えられず、何らかの票操作が行われた疑惑がもたれている。
その他多くの地域において投票数が住民の数を超えるという事態がおこっており、これら超過票を集めると約4万票にはなるという統計資料が出されている。
ニューメキシコ州はアメリカ国内においても特にマイノリティ率の高い州であることから、マイノリティが投票に参加すれば民主党が独占できる州、と言われながらも毎回僅差で共和党が勝利を収めている州である。しかし僅差で共和党が勝ち続けている背後には数々の不正選挙の疑惑が隠されており、きちんとした調査が行われれば一番にぼろがでる場所とも言われている(の、わりにはニューメキシコ州の問題は一般的に知られていないのだが)。
2004年11月の選挙においてブッシュは6000票という僅差で勝利を収めた。しかしニューメキシコ州の選挙管理委員であり、不正選挙についての調査を行っている女性によると、ブッシュの勝利が確定した時点でなおニューメキシコ州には2万票以上の未開封票が残されており、それ以外にも集計されなかった票(主にマイノリティ・コミュニティにおける票)が多く残っているという。2000年にも同じような問題は指摘されていたが、もともと州代表の選挙人の数が少なく選挙の結果に決定的な影響を持たない州であるだけに、問題は追求されぬままに終わった。
その他、フロリダ州、オハイオ州などで確認された例として、
パンチカード方式を採っている地域で、大統領候補者のブッシュの欄にすでに穴が開いた状態のカードを渡された(もし投票者がケリーの欄に穴をあければ、穴が二つあいた票は無効票となる)
タッチスクリーン方式を採っている地域において、大統領候補者の箇所にブッシュの名前しか表示されなかった
といったことが確認されている。
もちろんある程度のエラーは選挙につきものであるが、いくつかの地域ではこういったマシーンや開票時のエラーによる誤差が10%以上にのぼる所もあり、状況はきわめて深刻であるといえる。

また選挙の焦点となったオハイオ州におけるもう一つの問題は、州における選挙全体を監視する任務を担う州務長官(セクレタリー・オブ・ステイト)がブッシュの選挙補佐グループの副責任者であるという点である。各地域への投票マシーンの配布数などは州務長官によって指名された共和、民主の代表計4名によって行われる。またオハイオ州ではブッシュの勝利が確認された後、票の再集計が行われたが、通常この再集計は全体の票のうちの3%を任意に抽出、集計し、その結果が当初の選挙結果にマッチしない場合には全体の再集計へと進む。しかし州務長官ブラックウェルは、3%の票の再集計が終了する前に再集計そのものを打ち切りブッシュの勝利を宣言した。11月の選挙におけるイレギュラリティの問題に比べ、再集計プロセスにおける不明瞭さについてはあまり指摘されていないが、現在ブラックウェルに対する訴訟の準備なども行われており今後さらに議論が進むものと考えられる。


さて、1月6日おこったことを理解するために、複雑な…というよりは奇妙なアメリカの大統領選挙の仕組みを簡単に説明しておこう。
アメリカ合衆国の大統領は11月に全国規模で行われる投票によってのみ決定されるわけではない。12月に各州から選出されるエレクトラル・カレッジ(選挙人)による投票が行われ、1月に上院・下院議員によってエレクトラル・カレッジの決定が承認されることによって初めて大統領が正式に決定する。パレードが1月20日に行われるのはそのためである。

エレクトラル・カレッジというのは、つまりの所大衆の決定を一部の政治家が吟味、再考、さらには却下することもできるシステムであって、アメリカが価値を置く民主主義とは対局にあるようなシステムである、というのはよく言われていることで、エレクトラル・カレッジの存続については延々と議論が交わされている。そもそもエレクトラル・カレッジが作られたのは、一人のカリスマ的な独裁者のような人物に大衆が煽動されるような事態を防ぐという目的があり、つまりその根底には政治家の大衆不信がある。大衆は物事を広い観点で見ることができないから良識ある政治家が最終決定権を握るべきである、というわけである。
ただ、大衆の意識がどう作られているにしろ、最終的に一部の政治家が大衆の決定を覆すということは大衆の意志を無視している=民主的でないという批判を免れ得ないのであって、現在のエレクトラル・カレッジは、政治が正しい方向へ向かっていくよう監視するというよりは11月の大統領選の結果を、それがどんなものであれ後押しする、という機能しか持っていないのが実情である。

ところでエレクトラル・カレッジを構成する選挙人の数であるが、これは州の人口に比例して決定される(ワシントンDCのみ人口に関係なく3人の選挙人を抱えている)。一番少ないのはアラスカの3人。一番多いのはカリフォルニア州で55人の選挙人を抱えている。
特定の州において勝利を収めた大統領候補は票差に関係なくこの選挙人全員を獲得できる(2州を除く)。大統領選中継においてアメリカの地図が示されていたと思うけれど、地図がほとんど真っ赤なのにも関わらずブッシュとケリーの票差がほとんどなかったのは、ケリーが人口の多い(でも面積は小さく数も少ない)東海岸や西海岸の民主党州をきっちり押さえていたからである。

先にも述べた通り、ここでの結果がエレクトラル・カレッジで覆ることはまずないので、実質上11月の選挙結果が大統領を決定するものと一般には受け止められている。敗者がこの時点で敗北宣言を行うのもそのためである。
ただ選挙そのものは続き、12月に(形ばかりの)エレクトラル・カレッジによる投票が行われ、ここでの結果が議会に送られ1月6日に議会による承認を受けて初めて大統領が決定される。

と、ここまでくればなぜ1月6日が重要なのか理解できるであろう。2004年の大統領選を疑問視する人々にとって1月6日は、大統領選の結果を覆す、あるいは少なくとも選挙の公正性についての論争を巻き起こす、まさに最後のチャンスなのである。もちろん1月6日を過ぎても不正投票疑惑についての調査は続くであろうし、すでにさまざまなレベルで投票の不正、不平等をめぐっての訴訟の準備も行われている。ただいったん議会によって大統領の承認が行われてしまえば、その後どんな結果がでようとも大統領選をやり直すことは不可能である。また裁判にかかる時間の問題もある。
しかし1月6日に、上院議員の内の一人でもエレクトラル・カレッジの投票結果に対し疑問を差し挟む者がいれば、選挙を、少なくとも開票をやり直す可能性はある。
ちなみにマイケル・ムーアの『華氏911』の冒頭シーンを覚えている人はいるだろうか。フロリダ州におけるゴアの(幻となった)勝利宣言シーンの後、下院議員が不正投票/開票を理由にエレクトラル・カレッジの投票結果に対し異議を申し立てるシーンがある。その際議長であるゴア(当時の副大統領)は「上院議員のサインはあるか?なければ異議は無効。却下。」と議員(大半はマイノリティ議員)による異議をばさばさと切り捨てていく。
ここで重要なことは2点。
1.エレクトラル・カレッジの決定を取り消すにはどんなに多くの下院議員が異議申し立てを行っても無駄である。
2.しかし上院議員が一人でも異議申し立てを行えば、エレクトラル・カレッジの結果の見直しが行われなければならない。
つまり、上院議員のうち、一人でも見方につければ勝てる可能性がある、というわけである。

理由はなんであれ、選挙に何らかの不正があったと考える数万人の人々が1月6日までに自分たちの州の、あるいは州の枠組みを超えて各地の上院議員に電話をかけてまわったのも、この「一人でも見方につければ…」という希望があったからこそである。
1月5日から6日朝にかけて、民主党所属でリベラルとして知られるヒラリー・クリントンのオフィスには、まさに息をつく暇もないほどのペースで、「エレクトラル・カレッジの決定に異議を唱えてくれ」という市民からの電話がかかってきたという。

前日夜には、少なくとも8人の上院議員がエレクトラル・カレッジの決定に異議を唱える可能性を示唆していた。ただ2000年の時と同じく、直前になってケリーが「選挙に問題はなかった。オハイオ州の結果を承認する。」という声明を出したため、実際に異議申し立てが行われる可能性はほぼゼロとなった。
ただカリフォルニア州の民主党派議員であるバーバラ・ボクサーは「必ず異議申し立てに加わる」と発表していたため、一人になったとしてもやってくれるのではないか、という希望的観測が飛び交った。
1月6日の朝までに、ボクサーは異議申し立てを行う意志を再表示し、これによってエレクトラル・カレッジの結果は1時の承認会議において再議論されることが確実となった。
しかしこの時点でボクサーが異議申し立てを行った後、はたして何がおこるのかをきちんと理解している人はほとんどいなかったと言ってよい。
理由は簡単である。
エレクトラル・カレッジの結果に対する上院・下院議員による異議申し立てが過去に行われた例がなかったからである。正確にははるか昔に一例だけあるのだが、この時のことは一部の法律家、歴史家等によってしか知られておらず、そもそもエレクトラル・カレッジの結果を覆しうる制度があること自体、ほとんどの人には知られていなかった。

1月6日に起こったことの詳しい内容はこの次にするとして、ここではその日何が起こったかを時系列にそって簡単に説明しておきたい。
1月6日の午前10時から12時にかけて市民による議会場へのマーチが行われた。
マーチの出発点となったラ・ファエット公園と終着点のアッパー・セネット公園にはステージがセットされ、政治家、法曹家、オハイオ州やニューメキシコ州の代表、統計専門家などがスピーチを行った。やがてボクサーが異議申し立てを行いエレクトラル・カレッジの決定についての審議が始まった。審議は上院議員一人につき5分という時間制限内に異議申し立てについて意見を表明し、全員が意見を述べた後に異議申し立ての妥当性についての投票が行なう、という形で進む…はずだったのだが、通常2〜3時間かかるはずの意見表明が一時間足らずで終わってしまったことを考えると、5分まるまる使って意見を述べたのはほんの一握りの議員であったようだ。
2時から始まった意見表明は3時前後にはすでに終わり、ボクサーの異議に基づきエレクトラル・カレッジの決定を再審議するかどうかの採択が取られた。結果、ボクサーの異議申し立ては却下され、上院議会は74対1(下院議会は267対31)でエレクトラル・カレッジの結果を承認した。

ところで、1月6日のプロテスト(もちろんそこに至る前のプロセスも含め)の意義について考える際重要なことは、こうした運動が共和vs.民主、ブッシュvs. 反ブッシュといった枠組みには当てはまりきらないという点である。プロテストの参加者の中に反ブッシュ運動に関わっている者やケリー支持者は含まれるものの、ブッシュを倒す、ということを最終的な目標としている人はほんの一握りである。むしろ人々を動かしているのは、「声を聞いてほしい」「声が届いているのか確かめたい」という素朴かつ切実な思いであって、最終的な目標は自分たちの声をそのまま届ける、ということになる。
もちろんこれまでの4年間にわたるブッシュ政権がなければ、そして今回ブッシュが再選するという自体が起こらなければ、これだけ多くの人たちが「自分たちの 声を届ける」必要性を感じることはなかったのかもしれない、という意味では公正な選挙を求める運動と現政権に対する批判とは切っても切りはなせない関係にある。イラクにおけるアメリカ軍の混迷、低所得者層を切り捨てるブッシュ政権の社会保障政策や教育政策、ゲイ、レズビアン、シングル・マザーなどマイノリティへの配慮の欠如といった問題が多くの人々に「ブッシュの再選を防がなければ」という意識を持たせたのも確かである。
また、プロテストに集まった人々の声に答える形で全体の票の再集計が行われ、その結果ブッシュが負けるということになれば、彼/女たちの運動はケリーをサポートすることにもなる。
しかしそれでもやはり重要なのは、集まった多くの人たちによってブッシュを倒すこと、ケリーが大統領になるということは、あくまでも運動の成功から派生する付属的な結果の一つであって、最終的な目標はあくまでも自分の声を主張すること、自らの存在が政治的な領域においてきちんと認識されるようにする、という点にある。
で、あるからこそ、この運動は同じ目標を共有するアフリカン・アメリカンの市民運動グループ、ゲイ・レズビアン運動家、フェミニストや反戦家といった幅広い人々を取り込みながらここまで拡大してきた。
長いアメリカ市民運動の歴史において、これだけ幅広い領域(エスニシティ、セクシュアリティ、政治的興味の対象などなどにおいて)にまたがる人々が一堂に会するというのはそうあることではなく、そういう意味ではこの運動はベトナム戦争時における市民運動に近いものがへと発展しうる可能性を孕んでいるといえる。当時の運動の焦点はベトナムからのアメリカ軍の撤退であり、今回はアメリカ国内に置ける公正な選挙の実現、という違いはあるが、両者ともに大衆の声を届ける、という意志によって動いている/動かされていたという点では同じであるといえよう。

ブッシュの再選は確定となったが、2004年の選挙をきっかけに火がついたアメリカ国内におけるオレンジ革命がどこまで成長するのか興味深く見守っているところである。

今回のプロテストで撮ったクリップの一部(どちらもQuick Time Movieが必要です)
スライドショー
http://www.binghamtonpmc.org/images/Jan06Protest.mov
緑の党の次期大統領選候補David Cobbからインディペンデント・メディアへのメッセージ
http://www.binghamtonpmc.org/images/jan06/cobb-imc.mov

関係グループ(一部)
We do not concede
http://www.donotconcede.com/
1/6についてのフライヤーはこちら
http://www.donotconcede.com/FreedomWinter.html

51 Capital March(エレクトラル・カレッジにおける投票の日に行われたマーチ)
http://www.51capitalmarch.com/
Rainbow Coalition
http://www.rainbowpush.org/FMPro?-db=RPOfrontpage.fp5&-format=rainbowpush/frontpage/results.htm&-lay=front&constant=1&-find
C.A.S.E. Ohio
http://www.caseohio.org/
ReDefeat Bush
http://www.redefeatbush.com/
No Stolen Democracy
http://nostolendemocracy.typepad.com/blog/
Code Pink
http://www.codepink4peace.org/

IMC
http://www.indymedia.org/en/index.shtml
IMC, Binghamton
http://www.binghamtonpmc.org/
Free Press
http://www.freepress.org/

posted by f at 2005/01/15 14:41
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