赫い髪の女

赫い髪の女/1979.02.17/日本/73min./カラー/神代辰巳 

神代辰巳の「赫い髪の女」を見る.
寂れた田舎町の土木作業場を転々としている男達.どこからかあるいは何かから逃げてきた女.寂れた安アパート.雨・雨・雨...
そしてふと気付く.これは中上健次の世界だ...
閉ざされた世界.閉ざされた人々.そして雨...雨の音は常に止まず,もうどこにも,ここから一歩も動けないんだ...というある種の絶望感を誘う.雨の日は工事が進まないから,女と男は部屋でひたすら躰と躰を合わせ続ける.ものも食べずにただひたすら激情をぶつけあう.だからといってもちろん結婚して家庭を持とうとか子供を作ろうとか,そんな話には絶対にならない.なぜならそうすることで得られるかもしれないあたり前の幸せや未来なんてものはないっていうことは男にも女にもあまりに明白に思われてしまうからだ.
多分女は,家を夫を子供を捨てて街を飛び出した時点ですべてを失ったのだ.自分がこうであったかもしれないいろんなものが全部なくなった時,そこには自分を愛する男との身体的接触を通じてしか自分の存在を確かめられなくなっている自分が残ったのだ.だから二人はただ一緒にいることだけを目的とし,そして躰を離せば死んでしまうのだという強迫観念にあえて身を任せ,閉ざされた世界にじっと身を潜める.
男の若い同僚はレイプした若い女と共に幸せを求めて大都会へと去っていく.そして赤い髪の女は暗い部屋の中でいう.「若い人はええなあ,ええなあ,ええなあ...」それは最後には絶叫へと変わっていく.
下の階からは果てしなく続く女の叫び声.
しかしだからなんだというのだ.可能性なんて結局始めからなかったんだ.夢なんていう実在しないものを追い掛けて傷付いてボロボロになってなってどうしようもなくなってしまったからといって,この小さなアパートで男と二人インスタントラーメンをすする生活は何もない空っぽの暗闇だなんてどうして言えるだろう.結局ここなんだ.辿り着くのも,また始まるのもここなんだ...そういうほとんどしたたかさにも近い強さを神代映画に出てくる人々は持っている.そしてそれが彼の映像に凄みを与えるのだ. 

posted by f at 2001/02/20 2:17
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