さらば愛しき大地

田村正毅特集(さらば愛しき大地/1982.04.09/日本/130分/カラー/柳町光男)

最近,図書館でやっていた田村正毅特集を見に通っていて,昨日は"Helpless"と中上健次が生前撮っていた16mmを編集した"路地へ"を見てきました.
でも,徹夜あけだったので途中で記憶が...とんだりしてたんですけどね...
で,その前に"さらば愛しき大地"というのを見て,これがすごくよかった...その後,本当に死にたくなるくらい鬱な精神に響いてくる映画でした...現在鬱症状のある方は決してみないで下さい(笑)...

内容は,過疎の村に住む家族の長男が,農業だけじゃやっていけないからダンプの運転手に転職するわけです.
弟は華の都東京に出ていき,自分は家族と子供と,年老いた両親とともに,家を守るべく毎日ダンプに乗っている.時折沸き上がってくるどうしようもない空虚感.
それを紛らわせてくれる唯一の希望であった子供は,雨の日に池で溺れて死んでしまう.
逃げ場のない日常.
同じく村に(抑圧的な愛情でもって迫ってくる母親に)閉じ込められている(と同時にそれにすがっている)娘(しかもこの人は弟の学生時代の恋人)と関係を持ち,やがて二つの家を行き来するようになる男.
しかし心を満たしてくれるように思われた若い女との関係も,新しく生まれた子供も,彼の巨大な虚無感を埋めることはできず,男は覚醒剤に手をだすようになる.
薬ももちろん彼の心を満たしてはくれない.むしろその虚無感はより堪え難いものになっていくばかりだ.
その理由を理解しようと思っても,それを克服しようと努力してもそれは無理だ.
それは彼の劣等感みたいなものに直接的に根ざした問題ではないからだ.
そこには義務としての伝統的慣習や,発展の一途を辿る当時の経済的状況,生産構造の転換,中央と周辺...
そういった彼自身がわけも分からぬうちにすでにその内部へと取り込まれている,より大きな何かがあるのであって,彼の虚無感・空虚感・世界との断絶といった問題は,実はこうした彼が取り込まれている様々な状況の内から降って湧いてくるような...そういうものなのだ.
その時,青々とした田んぼの稲穂が,どこまでも続いていく緑の大地が,広く青い空が...どうしようもなく抑圧的なものとなって眼前に迫ってくる.
そして自分はもうどこへも行けないのだ.新しい「世界」なんてものは,この大地の内にも外にも,決して存在してはいないのだ...という思いだけが確かなものとして浮き上がってくる.

男は,自分にとっての最後の最後の最後の砦だった女を,結局は刺してしまい,もうすべてが終わったような顔をして娘と二人,ダンプによっかかりながら,目の前に広がる田んぼを見つめる.
最後,田んぼの真ん中で警察に取り長えられるシーンは,短いけれどもなんとも言えない哀しみをさそう.
そして家では,日常が続いていく.
映画の中における農村の風景と鹿島の工業地帯の風景との対比も興味深いものである.

posted by f at 2001/02/25 2:21
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