不自由な身体

昔、まちづくりとかをやっている先生の授業で、住民参加型のプランニングをする時によくやる、ポストイットを使った授業形式のものがありました。毎回何かお題があって、それぞれポストイットに自分の答えを書き込み、それをもとに先生がいろいろお話するっていうような。なんか、あんまり何かを勉強したという気にはならなかったけど、それなりにおもしろい授業ではありました。

ある時のお題が、
「自分のうちで一番前衛的な部分と後衛的な部分は?」というもので、
私は、
「後衛的:私の身体」「前衛的:私の欲求」と書いたのだけど、
それを見て先生が一言、
「すっげーこと考えているんだろうなー」って。

でも、このときの回答は、自分の心情と結構一致しているところがあって、
だって、欲求っていうのは身体的な境界だとか精神的な限界だとかを越えていく可能性を持っていると思うんだけど、実際にわき上がってくる欲求と、実際に人間が持つ身体的機能というのは全然つりあっていない。まぁ、そういうことをいうと、身体の解放だ、とか、自由になれとか、精神と身体のシンクロだ、とか、なんか怪しげな所から誘われちゃったりするんだけど。

というか、私が個人的にすごく好きな福岡在住の現代美術作家の人がいて。
中小企業の社長さんなんだけど、こう、大学でて、まじめに働いて、結婚して子供育てて、で、やっと子供も成人して、さーこれから夫婦水入らずで静かな第二の人生を、って考えていた矢先に、突然奥さんに逃げられて、あれ?どういうこと?みたいな、そういう状態になって、アートをはじめた人なんですが。あまりに普通にまじめに、家族を養い仕事をきちんとし、みたいなことをあたりまえのこととして生活してきたがために、どこで何がずれてしまったのか、なんで突然一人になったのか、よく分からない。そういう過程を経て、なぜかたどり着いたのがアートだったっていう。あの、そうはいっても、彼はすごいズコーンと抜けた所のあるおもしろい人で、行動力もあるし、でもなんか鬱っぽいし、もう、私は大好きなんですけど。

「いや、普通さ、中年会社人間とかだったらゴルフとかに行くんだろうけど、僕、ゴルフ好きじゃないしさ、お酒とかもそんなに飲まないしさ、食い道楽ってわけでもないし、なんか同年代の人たちがやるような趣味とかがことごとく苦手で、だからアートなんてはじめちゃったんだろうけど」って。
それにしてもやっぱりなんか間違っているというかおもしろいというか。離婚されて現代美術って。で、廃棄タイヤのチューブをひたすら膨らますの。ホント、何を思ってチューブを膨らましたり、膨らましたチューブ背負って旅に出たりするんだろう、って興味津々。

で、その作家さん、時々舞台美術みたいなこともやるんですが、その関係である時、舞踏家の方と知り合われたそうなんですね。この舞踏家の方というのが、舞踏療法と呼ばれる一種の心理療法みたいなこともやっている人で、つまり心理的な問題を抱えた人に舞踏の世界を教え、身体を動かし解放することによって、精神的な問題を乗り越えて行く力添えをする、みたいな。ごめん、私、そういうのってすぐいかがわしい...とか思っちゃうんだけど、結構人気あるみたいですよ、うん。

で、作家さんもね、誘われたらしいんですよ。
「でもさー、僕、『さー!自由に思うままに身体を動かしてみましょう』とかいわれてもさ、なんていうかさ、どうしていいか全然分かんなくてさ、結局ぼーっとステージ上で突っ立ってたりとかさ、そんな感じになっちゃうよ、絶対」って。

なんというか、そういうのって、ある側面から見れば、身体の自由を完全に失っている、ああしろこうしろいわれないとどう動いていいのか分からない(少なくとも身体的な部分においては)、仕事人間の悲しいサガ、みたいに思われそうですけど、でも、私は個人的に、彼の身体の不自由性みたいな方に共感しちゃうわけで。だってね、舞踏心理療法って、そこで解放される身体性だとか、身体と精神の融合だとかってさ、本当にそうなの?本当に解放されているの?融合しているの?そんなんでいいわけ?とか思っちゃう。

ある意味頭でっかちなんだろうけど、そんなことで身体あるいは精神を完全に充足できるなんて思えないわけです。そんな所で得られる解放って、それはちょっと私が求めるものとは違う、とか思ってしまう。そんな簡単に解放されちゃうのって危険な気もするし。もっとこう、いろんな葛藤とか分け分からなさとかとかに翻弄されつつ、でもどこか遠くにあるかもしれないものとして、そういう身体的な解放だとか精神的な自由だとかを求める、そういう方が正しいような気がしちゃう、感覚的にだけど。


ちなみに、まちづくり授業で一緒だった人から、その後食事に誘われて、
それは私の前衛的な欲求に興味があるのですか?とか思ったりもしたのでした。

posted by f at 2003/01/20 15:43
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