ホラー三昧

雪のせいか、今日は一段と人が少なくて、哲学科のフロアにいるのは私と秘書の人たちだけだ。

おとといの夜、ステチーが借りてきたサイコ・スリラー系のDVDを見た。
"What Ever Happened to Baby Jane?"というクラシック・スリラーと"The Blair Witch Project"。
ホラーとかスリラーって、内容が、というよりはドキドキ感だとか気味悪さだとかがいつまでも頭に残るのが嫌で、めったに見ることがないのだけれど、なんとなく魔が差したというかなんというか...
案の定、"What Ever Happened to Baby Jane?"を見た後、やけに目は冴えてくるし、ドキドキ感は止まらないしで、えーい、こうなったら行く所まで行ってしまえ、と結局"The Blair Witch Project"まで見てしまった。(大間違いだった)
そして目はさらに冴え、ドキドキはさらに高まり、悪夢にうなされることになったのでした。
内容的には、両方とも心理的な恐怖をそそる感じでおもしろかったんだけど、やっぱり、あの、叫び声とか怒鳴り声とか...切羽詰まった人間同士の醜さというか狂気というかは見ていて疲れる...それもまた人間が本質的に抱えている一面ではあるのだろうけれど。

最近ネーゲルを読んでいる。
アメリカで哲学をやる以上、D論はきっちり分析哲学を押さえつつ、その批判まで含めることができれば...という風になりつつあるのだけれど、オーソドックスな分析哲学よりの環境倫理とその批判とをつなぐ部分にネーゲルの価値多元主義をおくつもりでいるのだ。分析哲学をやることに対して割り切れない気持ちとかもいろいろあって、バランスを取るのが自分の中でも難しかったのだけれど、多分、これでいくと思う。
ネーゲル、日本ではそんなに翻訳本とかも出ていないし、なんか「こうもりの人」(ネーゲルの本として日本で多分一番有名な哲学入門書みたいなのがあって、そこで、Philosophy of Mindにおける基本的な問題を論じる時にこうもりの例が出てくる)のみたいな感じでしか受け入れられていないような気がするんだけど、結構、既存の分析哲学(主にPhil of Mindですが)に対する批判という点ではおもしろいこともいろいろ書いている。オプティミスティックなアメリカ人知識人の中で、強くペシミスト路線を貫いているというだけで、なんとなく親近感を覚えてたりも。でも、アイデンティティ論にしても志向性論にしても、やっぱり分析的な理論展開って抵抗を感じてしまうのだけれど...
 
それにしても環境倫理をやっていて思うのは、帰結主義の呪縛は果てしなく強く深いということだ。環境倫理といった応用倫理学は、政策に応用可能なプラクティカルな側面を求められるのだけど、この実践性というのが絡んでくると、帰結主義的な縛りは、もう、逃れようがなくなる。政策というのは良い結果を導くために作られるものであって、そういう意味で、優先されるべき価値の設定とその価値の最大化という帰結主義的な枠組みと切っても切り離せないようなものだからだ。何の価値もなくて、何のためにもならなくて、しかも最大化される必要もないようなものを守ったり生み出したりするための政策は存在しない。一見、全体的な幸福あるいは善の増大とは相反するような政策(世界最大量の石油が埋蔵されているとされている地域をあえて開発せずに自然公園として保護する等)も、結局は、その場所の自然価値は石油によってもたらされるものの価値(経済的な豊かさとか)よりも上で、であるがゆえに最大化されるべきである、という帰結主義的な論理に貫かれている。功利(utility)というタームに変わってvirtue(徳)だとかdeontological constraint(道徳的義務)だとかを持ち出してみても、例えば特定の道徳的制約を守る理由は何か、徳を重視する理由は何かと言われたら、それはやっぱりそれを行うことが最終的に良い結果につながるからだとか、あるいは特定の道徳的制約なり徳なりに価値があって、それは最大化されるべきだから、ということになってしまう。ハードコアな義務論や徳理論では必ずしもそういう話にはならないのだけれど、それらをどう実際の政策に応用していくのか、ということになれば、どうしても帰結主義的な話になってしまう。そして帰結主義である以上、政策の内に含まれているマイナスの要素はプラスの要素の内に還元されてしまうことになる。単一の価値評価軸に添う形で。
帰結主義の呪縛については先学期ビジネス・エシックスのTAをしていた時にも出てきたし、メディカル・エシックスでも延々議論されていることだったりもする。やっぱりこれは応用倫理学が、その構造上、絶対に逃れえないものなのでしょうかね...なんていう話を教授としてみたり。 

posted by f at 2004/02/06 23:36
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