再び言葉の力について

ディスカッション・セクションに超キュートな男の子がいるのだけれど、彼が"フミヲ!you are the best TA ever!"って言ってくれた。こういうモチベーションアップに役立つ褒め言葉はきちんと記録しておこう。ぐりぐり。

昨日はイギリスの左派アクティビスト(?)、Tariq Aliの講演を聞きに。
それなりにおもしろかったのだけれど、別に目新しい話はなかった。まぁ、普通にブッシュのイラク政策の違法性やアメリカのメインストリーム・メディアのダメっぷりをくり返した感じ。ただ、おもしろかったのは、ブッシュ・アドミニストレーションのことをこてんぱんに批判する一方で、君たち良心的な市民が最後の砦だっていう感じで、人々を煽動(という言い方はよくないかもしれないけれど)するような雰囲気に持っていくこと。これぞ運動家の講演!といった感じだった。
どういうやり方を取るかといえば、アメリカは最後の帝国で、これに拮抗するような勢力がない以上、アメリカ市民が主体的に帝国の動きというものを決定していかなくてはならない、というような... いや、実際はもっと極端で、ヨーロッパも中国も日本もアメリカ上層部を止める力なんてない。君たちだけが最後の希望だ!みたいな感じ。
市民の意識を高めるというのは確かに大切なことなのだろうけれど、こういう形で訴えかけることはアメリカ市民の間に、根拠のない選民意識を広めることになったり、強いアメリカに対する誇りや、なんでも正義に訴える単純な思考を歪んだ形で助長することになるんじゃないんだろうか、という気もしたり。

あと、一つ気になったのは、中東問題やイスラエル/パレスチナ問題の講演会に必ず出てきて、「お前らみんなグルだ!なんだかんだ言ったってパレスチナのことを全然考えていないじゃないか!」っていうような発言をくり返す、多分パレスチナ人の男性がいるのだけれど、今回も講演の後で、後ろの方から「それで、お前の祖父がしたことについてはどう思っているんだ!」と叫んでいる彼のことを、Aliが「僕が祖父のやったことの責任を取る必要はない」と一言で切り捨てたこと。
いや、確かにこのパレスチナ男性の発言はいつもすごい極端な上に、講演者の話と全くかみ合っていないようなことが多いのだけれど、その直前、話の締めとして、Aliが歴史の重要性について主張した直後の「過去に対する責任はない」発言だったので、少なからずがっくりきた。なんだよ、祖父のやったことやその結果について何らかの責任を取ろうとする態度こそが歴史の重要性を確認するということじゃないのかよー、なんて。
もちろんAliのレベルになれば、講演会を妨害されたり、いわれのない言いがかりを付けられたりすることもよくあるのだろうけれど、だからといってそういう人たちを邪険な態度で扱う講演者の姿を、初めて彼の講演を聞く聴衆はどう思うのだろう。少なくとも私は良い印象は持たなかった。

ちなみに、講演会の後、家に戻ってからステチーが図書館から借りてきたMichael Moorの"Bowling for Columbine"を見たのだけれど、なんというかブッシュ・アドミニストレーションに対する批判とかイラク戦争に対する立場においては似た部分持多い二人なのに、その主張の仕方にすごく大きな違いがあるような気がして興味深かった。

MoorもAliも、基本的には、上はダメだから市民ががんばろうっていう運動路線なのだけれど、Aliが、ある意味洗練された言葉と理論を用いた、煽動的とも言えるような手法に訴えかけるのに対し、Moorのそれはどうしようもなく混沌としている。彼は政治的で、メリハリの効いた、それこそ一種の煽動のようにも取られかねないようなパワフルなドキュメンタリーを撮るけれど、その内容は実に混沌としている。そこには矛盾するいくつもの主張や主義や生き方というものがあって、カメラが映し出すのは、現実の複雑さやどうしようもなさばかりだ。しかもMoorという人は、映画の編集能力はとんでもなく高い人だと思うのだけれど、普段、カメラを意識しないような状況で話す場合の編集能力は皆無に等しくて、すごく冗長で同じ所をグルグルと回るような、分からないことを分からないと言い続けるような、ダラダラした話し方をすることがある。気持ちに訴えかけてくる力はあるけれど決して話のプロではない。

でも、AliとMoorを比べながら思ったのは、その冗長さや、まだはっきりとは見えないようなものをなんとか言葉にしよう、という態度こそが大事なのではないかということだ。分かりやすくて盛り上がれる言葉より、支離滅裂で、ストレートじゃなくて、うまくまとまらないままにもがいている状態の言葉の内に、より大切なものが隠れていたりするのではないだろうか。 

posted by f at 2004/02/20 0:41
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